第十九巻 : わが背子と手携はりてあけ来れば

平成九年丑年三月二十九日(土)更新

原文: 和我勢故等 手携而 暁来者 出立向 暮去者 授放見都追 念暢 見奈疑之山尓 八峯尓波 霞多奈婢伎 谿敝尓波 海石榴花咲 宇良悲 春之過者 霍公鳥 伊也之伎喧奴 獨耳 聞婆不怜毛 君与吾 隔而戀流 利波山 飛超去而 明立者 松之狭枝尓 暮去者 向月而 菖蒲 玉貫麻泥尓 鳴等余米 安寐不令宿 君乎奈夜麻勢

作者: 不明

よみ: わが背子と手携(たづさ)はりてあけ来れば出で立ち向かひ、夕さればふり放け見つつ思い暢(の)べ、見和ぎし山に八峯(やつを)には霞たなびき、谷べには椿花咲き、うら悲し春の過ぐればホトトギスいやしき鳴きぬ、独りのみ聞けばさびしも、君とわれ隔てて恋ふる砺波山(となみやま)飛び越えゆきて、明けたたば松のさ枝に、夕さらば月に向かひて、菖蒲(あやめぐさ)玉貫(ぬ)くまでに鳴きとよめ、安寐(いね)しめず君を悩ませ

意味: あの人と手をとりあって夜明けを迎えたならば家を出てその山に向かい、夕暮れになると山を見て心を和らげ、山の峰には霞がたなびき、谷には椿が咲き、春が過ぎるとホトトギスがしきりに鳴き、独りでそれを聞けばさびしい。ホトトギスさん、あの人と私とを隔てている砺波山を飛び越えて、朝には松の枝に、夕暮れには月に向かって、あやめぐさが咲くまで鳴き立てて、あの人を眠らせないで。

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