第九巻 : 小垣内の麻を引き干し妹なねが

2008年02月24日(日)更新


原文: 小垣内之 麻矣引干 妹名根之 作服異六 白細乃 紐緒毛不解 一重結 帶矣三重結 苦伎尓 仕奉而 今谷裳 國尓退而 父妣毛 妻矣毛将見跡 思乍 徃祁牟君者 鳥鳴 東國能 恐耶 神之三坂尓 和霊乃 服寒等丹 烏玉乃 髪者乱而 邦問跡 國矣毛不告 家問跡 家矣毛不云 益荒夫乃 去能進尓 此間偃有

作者: 田辺福麻呂(たなべのふくまろ)歌集より

よみ: 小垣内(をかきつ)の、麻(あさ)を引き干(ほ)し、妹(いも)なねが、作り着せけむ、白栲(しろたへ)の、紐(ひも)をも解(と)かず、一重(ひとへ)結(ゆ)ふ、帯(おび)を三重(みへ)結(ゆ)ひ、苦しきに、仕(つか)へ奉(まつ)りて、今だにも、国に罷(まか)りて、父母(ちちはは)も、妻(つま)をも見むと、思ひつつ、行きけむ君(きみ)は、鶏(とり)が鳴(な)く、東(あづま)の国の、畏(かしこ)きや、神の御坂(みさか)に、和妙(にきたへ)の、衣(ころも)寒(さむ)らに、ぬばたまの、髪(かみ)は乱(みだ)れて、国(くに)問(と)へど、国をも告(の)らず、家(いへ)問(と)へど、家をも言はず、ますらをの、行(ゆ)きのまにまに、ここに臥(こ)やせる

意味: 垣内(かきつ)の麻(あさ)を引いて干(ほ)して、奥さんが作って着せたのでしょう。白栲(しろたへ)の紐(ひも)も解(と)かないで、一重(ひとえ)に結ぶ帯(おび)を三重(みへ)に結ぶくらいに痩(や)せて、苦しいのに、お役目を果たして、今でも国に戻って、父さんや母さん、奥さんにも会おうと思いながらやってきたあなたは、東(あづま)の国の、怖(こわ)い神の居る坂に、柔らかな衣を着ていても寒くて、黒髪は乱れて、国はどこかと聞いても答えず、家はどこかと聞いても言わないで、男の人が帰郷に向かったまま、ここに横たわっています。

足柄 撮影(2005.10) by きょう

この歌の題詞には、「足柄(あしがら)の坂に立ち寄ったとき、死んだ人を見て作った歌」と書かれています。都(みやこ)での任務を終えて国に帰るときに餓死したのでしょうか。

垣内(かきつ)は、垣で仕切られた場所をいいます。


第九巻