万葉集:梧桐(あをぎり)を詠んだ歌

平成11年9月5日(日)更新


梧桐(あをぎり)は、アオギリ科の落葉高木です。葉が桐(きり)に似ていて、樹皮が緑なので、青桐(あをぎり:)といわれます。梧桐は、中国名です。亜熱帯地域に自生しますが、日本でも街路樹として植えられています。

第5巻に、次のような手紙といっしょに以下の3首が詠まれています。

大伴旅人(おおとものたびと)謹んで申し上げます。
梧桐(ごとう:あをぎり)の日本琴(やまとごと)一面[對馬の結石山の孫枝]
この琴が夢に娘となって出てまいりまして言うことには、
「私ははるかな島の高い山に根を張り、幹を空の光にさらしていました。
長い間、靄(もや)や霞(かすみ)に覆われていました。
風や波をながめながら、伐られるでもなくおりました。
100年後むなしく朽ちてしまうと恐れていたところ、
偶然にも良い匠(たくみ)に出会い、小さな琴になりました。
音が悪く音も小さいけれど、ずっとあなたさまのお側に
置いていただけることを希望していました。」ということなのです。
そしてこの歌を詠んでくれたのです。

大伴淡等謹状
梧桐日本琴一面[對馬結石山孫枝]
此琴夢化娘子曰
余託根遥嶋之崇巒 晞■九陽之休光
長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間
唯恐 百年之後空朽溝壑
偶遭良匠散為小琴
不顧質麁音少
恒希君子左琴
即歌曰

0810: いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ

私が、その歌に答えて詠んだ歌です。

僕報詩詠曰

0811: 言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし

その琴の娘が答えて言うには、
「謹んでありがたいお言葉をいただきありがとうございます。」と。
すぐに目が覚めて、夢に感じ入り、黙っていられず、
公用の使いに頼んでこの琴をお送りいたしました。[謹んで申し上げます]
天平元年十月七日附、使いをもって進上いたします。
謹んで、中衛高明閤下(ちゅうえいこうめいかっか)に。

琴娘子答曰
敬奉徳音 幸甚々々
片事覺 即感於夢言慨然不得止黙
故附公使聊以進御耳 [謹状不具]
天平元年十月七日附使進上
謹通 中衛高明閤下 謹空


謹んでお手紙をいただき、深く感激しております。
私ごときにすばらしい琴を贈っていただいたご恩、痛み入ります。
百倍もお目にかかりたい気持ちです。
白雲のかなた(筑紫のこと)から贈っていただいた歌に答えて詠んでみます。
房前(ふささき: 藤原房前)、謹んで。

跪承芳音 嘉懽交深
乃知 龍門之恩復厚蓬身之上
戀望殊念常心百倍
謹和白雲之什以奏野鄙之歌
房前謹状

0812: 言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも


万葉集の草花