第五巻 : 世間の貴び願ふ七種の宝も我れは

平成11年12月5日(日)更新


原文: 世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼婆 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等々奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃 尓布敷可尓 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸々 可多知都久保里 朝々 伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣吉 手尓持流 安我古登婆之都 世間之道

作者: 山上憶良(やまのうえのおくら)

よみ: 世間の、貴び願ふ、七種(ななくさ)の、宝も我れは、何せむに、我が中の、生れ出でたる、白玉の、我が子古日は、明星(あかぼし)の、明くる朝は、敷栲(しきたへ)の、床(とこ)の辺(へ)去らず、立てれども、居れども、ともに戯れ、夕星(ゆふつづ)の、夕になれば、いざ寝よと、手を携はり、父母も、うへはなさがり、さきくさの、中にを寝むと、愛しく、しが語らへば、いつしかも、人と成り出でて、悪しけくも、吉けくも見むと、大船の、思ひ頼むに、思はぬに、邪しま風の、にふふかに、覆ひ来れば、為むすべの、たどきを知らに、白栲の、たすきを掛け、まそ鏡、手に取り持ちて、天つ神、仰ぎ祈ひ祷み、国つ神、伏して額つき、かからずも、かかりも、神のまにまにと、立ちあざり、我れ祈ひ祷めど、しましくも、吉けくはなしに、やくやくに、かたちつくほり、朝な朝な、言ふことやみ、たまきはる、命絶えぬれ、立ち躍り、足すり叫び、伏し仰ぎ、胸打ち嘆き、手に持てる、我が子飛ばしつ、世間の道

意味: 世間の人が欲しいと願う七種の宝なんか、私は、どうして欲しがりましょう。我が家に生まれた白玉のような我が子「古日」は、明星が輝く朝は、床(とこ)のあたりを離れようとしないで、立ってもすわってもいっしょに遊んで、夕星の光る夕方になると、「ねぇ、寝ようよぅ。」と言って手を取って、「父さんも母さんも、そばを離れないでね。父さんと母さんの間に寝るんだもん。」と、可愛く言うもんだから、いつになったら大人になって、良くも悪くも見ていてやろうと、(大船に乗ったように)先の事を安心して思っていたのに、思いもよらず、突然強い風が吹いてきたようになって、どうしていいかわからずに、(ただ、)白栲の、たすきを掛けて、鏡を手に持って、天の神を仰いでお祈りをし、国の神に伏して額をつけてお祈りをし、どうなっても、それは神さまの思いのままと、とにかくお祈りし続けたけれど、ちょっとの間も良くはならず、だんだんと悪くなって、朝ごとに言葉がなくなってゆき、とうとう亡くなってしまった。。。。。。地団太(じだんだ)を踏んで泣き叫んでも、天を仰いで地に伏して胸をたたいて嘆いても、我が子を手放してしまった。これが世の中なのか・・・・・・・


第五巻