第五巻 : 風雑り雨降る夜の雨雑り雪降る夜は

2005年07月24日(日)更新


これは、いわゆる「貧窮問答歌(びんぐもんだふか)」と言われる歌です。読んでいくと、その時代の非常に厳しい現実を見せ付けられているようで、心苦しいものがありますね。長いので、読みにくいかもしれません。「意味」のところをざっとながめていただければと思います。


原文: 風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波 為部母奈久 寒之安礼婆 堅塩乎 取都豆之呂比 糟湯酒 宇知須々呂比弖 之■(はこがまに口)夫可比 鼻■(田偏に比)之■(田偏に比)之尓 志可登阿良農 比宜可伎撫而 安礼乎於伎弖 人者安良自等 富己呂倍騰 寒之安礼婆 麻被 引可賀布利 布可多衣 安里能許等其等 伎曽倍騰毛 寒夜須良乎 和礼欲利母 貧人乃 父母波 飢寒良牟 妻子等波 乞々泣良牟 此時者 伊可尓之都々可 汝代者和多流
天地者 比呂之等伊倍杼 安我多米波 狭也奈里奴流 日月波 安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴 人皆可 吾耳也之可流 和久良婆尓 比等々波安流乎 比等奈美尓 安礼母作乎 綿毛奈伎 布可多衣乃 美留乃其等 和々氣佐我礼流 可々布能尾 肩尓打懸 布勢伊保能 麻宜伊保乃内尓 直土尓 藁解敷而 父母波 枕乃可多尓 妻子等母波 足乃方尓 圍居而 憂吟 可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎尓波 久毛能須可伎弖 飯炊 事毛和須礼提 奴延鳥乃 能杼与比居尓 伊等乃伎提 短物乎 端伎流等 云之如 楚取 五十戸良我許恵波 寝屋度麻■(人偏にテ) 来立呼比奴
可久婆可里 須部奈伎物能可 世間乃道

作者: 山上憶良(やまのうえのおくら)

よみ:
風雑(まじ)り雨降る夜の雨雑り雪降る夜は、すべもなく、寒くしあれば
堅塩(かたしほ)をとりつづしろひ、
糟湯酒(かすゆざけ)うちすすろひて、
しはぶかひ、鼻びしびしに、しかとあらぬ、ひげ掻(か)き撫でて、
我れをおきて人はあらじと誇ろへど、
寒くしあれば麻衾(あさぶすま)引き被り、
布肩衣(ぬのかたぎぬ)ありのことごと着襲(きそ)へども、寒き夜すらを、
我れよりも貧しき人の父母は、飢ゑ凍ゆらむ、
妻子どもは乞ふ乞ふ泣くらむ、
この時はいかにしつつか、汝が世は渡る

天地は広しといへど、我がためは狭くやなりぬる、
日月は明しといへど、我がためは照りやたまはぬ、
人皆か我のみやしかる、わくらばに人とはあるを、
人並に我れも作るを、
綿もなき、布肩衣(ぬのかたぎぬ)の海松(みる)のごと、
わわけさがれる、かかふのみ肩にうち掛け
伏廬(ふせいほ)の曲廬(まげいほ)の内に、
直土(ひたつち)に藁(わら)解き敷きて、
父母は枕の方に、妻子どもは足の方に、囲み居て憂へさまよひ
かまどには火気吹き立てず、甑(こしき)には蜘蛛の巣かきて、
飯炊くことも忘れて
ぬえ鳥の、のどよひ居るに、
いとのきて、短き物を端切ると、いへるがごとく、しもと取る、
里長(さとおさ)が声は寝屋処(ねやど)まで、来立ち呼ばひぬ
かくばかり、すべなきものか、世間の道

意味:

交じりのが降る夜の、雨交じりのが降る夜は、どうしようもなく寒いので、
塩をかじりながら糟湯酒(かすゆざけ)をすすって、
咳をしながら、鼻をぐずぐずさせて、少しばかりのヒゲをなでて、
私以上の能の有る人はいないだろうと、うぬぼれてはいても、
寒くて仕方ないので、麻衾(あさぶすま)をひっかぶり、
あるだけの衣を着重ねしても寒い夜を
民家 撮影 by きょう
私よりも貧しい人の父母は、お腹を空かせて凍えているだろうに、
妻や子供たちは泣いているだろうに。
こういう時は、あなたはどんな風に暮らしているのですか。

天地は広いというけれど、自分には狭いものだ、
陽やは明るいというけれど、自分を照らしてはくれないものだ、
みんなそうなんだろうか、自分だけがこのようなのだろうか、

甕(かめ) 撮影 by きょう

人並みには私も汗水流しているのに、綿も入っていないし、海藻のようにぼろぼろになった衣を肩に引っかけて
壊れかかって曲った家の中に、地べたにわらをひいて
父と母は枕の方に、妻や子どもは足の方に、取り囲むようにして嘆き悲しむ
かまどには火が入ることはなく、蒸し器にはクモの巣が張って、もうご飯を炊くことも忘れてしまった

ぬえ鳥の様にうめき声をあげていると、これ以上短くはならない物のはしっこを切るとでも言うように、鞭を持った里長(さとおさ)が、寝床にまでやってきてわめき散らす、
こんなにもどうしようもないものなのか、世の中というものは。。。。。。


第五巻