第十八巻 : 大君の任(ま)きのまにまに取り持ちて

2002年1月27日(日)更新


原文: 於保支見能 末支能末尓々々 等里毛知■(氏+一) 都可布流久尓能 年内能 許登可多祢母知 多末保許能 美知尓伊天多知 伊波祢布美 也末古衣野由支 弥夜故敝尓 末為之和我世乎 安良多末乃 等之由吉我弊理 月可佐祢 美奴日佐末祢美 故敷流曽良 夜須久之安良祢波 保止々支須 支奈久五月能 安夜女具佐 余母疑可豆良伎 左加美都伎 安蘇比奈具礼止 射水河 雪消溢而 逝水能 伊夜末思尓乃未 多豆我奈久 奈呉江能須氣能 根毛己呂尓 於母比牟須保礼 奈介伎都々 安我末川君我 許登乎波里 可敝利末可利天 夏野能 佐由里能波奈能 花咲尓 々布夫尓恵美天 阿波之多流 今日乎波自米■(氏+一) 鏡奈須 可久之都祢見牟 於毛我波利世須

作者: 大伴家持(おおとものやかもち)

よみ: 大君の、任(ま)きのまにまに、取り持ちて、仕ふる国の、年の内の、事かたね持ち、玉桙(たまほこ)の道に出で立ち、岩根(いわね)踏み、山越え、野行き、都辺(みやこへ)に参ゐし我が背を、あらたまの年行き返り、月重ね、見ぬ日さまねみ、恋ふるそら、安くしあらねば、霍公鳥(ほととぎす)、来鳴く五月のあやめぐさ、蓬(よもぎ)かづらき、酒みづき、遊びなぐれど、射水川(いみづかは)、雪消(げ)溢(はふ)りて、行く水の、いや増しにのみ、鶴(たづ)が鳴く、奈呉江(なごえ)の菅(すげ)の、ねもころに思ひ結ぼれ、嘆きつつ、我(あ)が待つ君が、事終り帰り罷(まか)りて、夏の野の、さ百合の花の花笑(ゑ)みに、にふぶに笑みて逢はしたる、今日を始めて鏡なす、かくし常(つね)見む、面(おも)変りせず

意味: 天皇の命令通りにお仕えしているこの国の一年の政(まつりごと)の結果を報告書にして、岩を踏み・・・山を越え・・・野を行き・・・、都へ上って行ったあなたに、年が変わり月日が過ぎても会えないので、恋しくて落ち着きませんでした。だから、ほととぎすが来て鳴く五月の菖蒲草(あやめぐさ)や蓬(よもぎ)を縵(かずら)にして、酒宴をして心を慰めようとしたけれど、射水川(いみづかは)の雪解け水が流れて行くように恋しさは増すばかりです。鶴が鳴く奈呉江(なごえ)の菅(すげ)の根のように、絡みつくように憂うつで、溜息を吐きながらあなたの帰りを待ちわびていました。そのあなたがやっと仕事を終えて都から帰って来られ、夏の野の百合の花が咲くようにほほえんで私と逢って下さいました。これからは、鏡を見るようにいつもこうして変わることなく微笑んであなたと会っていたいと思います。

久米朝臣廣縄(くめのあそんひろのり)が、天平二十年(748)に都に越中の国の年次報告をしに行きました。報告も終わって、翌年の天平感宝元年(749)の5月27日に無事帰ってきたことを祝って、大伴家持(おおとものやかもち)が酒宴をし、この歌を詠んだということです。


第十八巻