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1498: 暇なみ来まさぬ君に霍公鳥我れかく恋ふと行きて告げこそ
1499: 言繁み君は来まさず霍公鳥汝れだに来鳴け朝戸開かむ
1500: 夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ
1501: 霍公鳥鳴く峰の上の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ
1502: 五月の花橘を君がため玉にこそ貫け散らまく惜しみ
1503: 我妹子が家の垣内のさ百合花ゆりと言へるはいなと言ふに似る
1504: 暇なみ五月をすらに我妹子が花橘を見ずか過ぎなむ
1505: 霍公鳥鳴きしすなはち君が家に行けと追ひしは至りけむかも
1506: 故郷の奈良思の岡の霍公鳥言告げ遣りしいかに告げきや
1507: いかといかとある我が宿に百枝さし生ふる橘.......(長歌)
1508: 望ぐたち清き月夜に我妹子に見せむと思ひしやどの橘
1509: 妹が見て後も鳴かなむ霍公鳥花橘を地に散らしつ
1510: なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我が標めし野の花にあらめやも
秋の雑歌
1511: 夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜は鳴かず寐ねにけらしも
1512: 経もなく緯も定めず娘子らが織る黄葉に霜な降りそね
1513: 今朝の朝明雁が音聞きつ春日山もみちにけらし我が心痛し
1514: 秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば
1515: 言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを
1516: 秋山にもみつ木の葉のうつりなばさらにや秋を見まく欲りせむ
1517: 味酒三輪のはふりの山照らす秋の黄葉の散らまく惜しも
1518: 天の川相向き立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き設けな
1519: 久方の天の川瀬に舟浮けて今夜か君が我がり来まさむ
1520: 彦星は織女と天地の別れし時ゆいなうしろ.......(長歌)
1521: 風雲は二つの岸に通へども我が遠妻の言ぞ通はぬ
1522: たぶてにも投げ越しつべき天の川隔てればかもあまたすべなき
1523: 秋風の吹きにし日よりいつしかと我が待ち恋ひし君ぞ来ませる
1524: 天の川いと川波は立たねどもさもらひかたし近きこの瀬を
1525: 袖振らば見も交しつべく近けども渡るすべなし秋にしあらねば
1526: 玉かぎるほのかに見えて別れなばもとなや恋ひむ逢ふ時までは
1527: 彦星の妻迎へ舟漕ぎ出らし天の川原に霧の立てるは
1528: 霞立つ天の川原に君待つとい行き帰るに裳の裾濡れぬ
1529: 天の川浮津の波音騒くなり我が待つ君し舟出すらしも
1530: をみなへし秋萩交る蘆城の野今日を始めて万世に見む
1531: 玉櫛笥蘆城の川を今日見ては万代までに忘らえめやも
1532: 草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも
1533: 伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ
1534: をみなへし秋萩折れれ玉桙の道行きづとと乞はむ子がため
1535: 我が背子をいつぞ今かと待つなへに面やは見えむ秋の風吹く
1536: 宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ
1537: 秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花
1538: 萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花
1539: 秋の田の穂田を雁がね暗けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも
1540: 今朝の朝明雁が音寒く聞きしなへ野辺の浅茅ぞ色づきにける
1541: 我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿
1542: 我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも
1543: 秋の露は移しにありけり水鳥の青葉の山の色づく見れば
1544: 彦星の思ひますらむ心より見る我れ苦し夜の更けゆけば
1545: 織女の袖継ぐ宵の暁は川瀬の鶴は鳴かずともよし
1546: 妹がりと我が行く道の川しあればつくめ結ぶと夜ぞ更けにける
1547: さを鹿の萩に貫き置ける露の白玉あふさわに誰れの人かも手に巻かむちふ
1548: 咲く花もをそろはいとはしおくてなる長き心になほしかずけり
1549: 射目立てて跡見の岡辺のなでしこの花ふさ手折り我れは持ちて行く奈良人のため
1550: 秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ
1551: 時待ちて降れるしぐれの雨やみぬ明けむ朝か山のもみたむ
1552: 夕月夜心もしのに白露の置くこの庭にこほろぎ鳴くも>
1553: 時雨の雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり
1554: 大君の御笠の山の黄葉は今日の時雨に散りか過ぎなむ
1555: 秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる朝明の風は手本寒しも
1556: 秋田刈る刈廬もいまだ壊たねば雁が音寒し霜も置きぬがに
1557: 明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ
1558: 鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも
1559: 秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや
1560: 妹が目を始見の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ
1561: 吉隠の猪養の山に伏す鹿の妻呼ぶ声を聞くが羨しさ
1562: 誰れ聞きつこゆ鳴き渡る雁がねの妻呼ぶ声の羨しくもあるか
1563: 聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり
1564: 秋づけば尾花が上に置く露の消ぬべくも我は思ほゆるかも
1565: 我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも
1566: 久方の雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
1567: 雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
1568: 雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり
1569: 雨晴れて清く照りたるこの月夜またさらにして雲なたなびき
1570: ここにありて春日やいづち雨障み出でて行かねば恋ひつつぞ居る
1571: 春日野に時雨降る見ゆ明日よりは黄葉かざさむ高円の山
1572: 我が宿の尾花が上の白露を消たずて玉に貫くものにもが
1573: 秋の雨に濡れつつ居ればいやしけど我妹が宿し思ほゆるかも
1574: 雲の上に鳴くなる雁の遠けども君に逢はむとた廻り来つ
1575: 雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも
1576: この岡に小鹿踏み起しうかねらひかもかもすらく君故にこそ
1577: 秋の野の尾花が末を押しなべて来しくもしるく逢へる君かも
1578: 今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける
1579: 朝戸開けて物思ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな
1580: さを鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを
1581: 手折らずて散りなば惜しと我が思ひし秋の黄葉をかざしつるかも
1582: めづらしき人に見せむと黄葉を手折りぞ我が来し雨の降らくに
1583: 黄葉を散らす時雨に濡れて来て君が黄葉をかざしつるかも
1584: めづらしと我が思ふ君は秋山の初黄葉に似てこそありけれ
1585: 奈良山の嶺の黄葉取れば散る時雨の雨し間なく降るらし
1586: 黄葉を散らまく惜しみ手折り来て今夜かざしつ何か思はむ
1587: あしひきの山の黄葉今夜もか浮かび行くらむ山川の瀬に
1588: 奈良山をにほはす黄葉手折り来て今夜かざしつ散らば散るとも
1589: 露霜にあへる黄葉を手折り来て妹とかざしつ後は散るとも
1590: 十月時雨にあへる黄葉の吹かば散りなむ風のまにまに
1591: 黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらぬか
1592: しかとあらぬ五百代小田を刈り乱り田廬に居れば都し思ほゆ
1593: 隠口の泊瀬の山は色づきぬ時雨の雨は降りにけらしも
1594: 時雨の雨間なくな降りそ紅ににほへる山の散らまく惜しも
1595: 秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも
1596: 妹が家の門田を見むとうち出で来し心もしるく照る月夜かも
1597: 秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり
1598: さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
1599: さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
1600: 妻恋ひに鹿鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく
1601: めづらしき君が家なる花すすき穂に出づる秋の過ぐらく惜しも
1602: 山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺に独りのみして
1603: このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
1604: 秋されば春日の山の黄葉見る奈良の都の荒るらく惜しも
1605: 高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
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