006 新たな敵
縁−enisi−
「あー、そりゃ俺は押しかけた身だし、かまわないっすけど…」
「実際無理を通したのはこちらです、かまいませんよ」
「そうか、すまないな。しばらくしたら用意出来ると思うから、片付けがすむまで我慢してくれ」
 新たに増えた三人に部屋を、ということになったのだが、何分アムは女性で、本人がいいと言ってもダバが断固としてダメだと言い張ったため(当たり前だが)、アムに二人部屋を、その近場にある二人部屋にダバとキャオが入ることになったときの会話である。
 実は男性二人の部屋にイルムが入るはずだったのだが、女性部屋に空きがなく、と言って一人部屋に押し込むわけにはいかなかったので、イルムにもうしばらく間借り生活をとアムロが言ってきたのだ。
 他にも空いてる部屋があるのだが、彼らの受け入れをコーウェン中将に報告した際、ブライト大佐が復帰することを告げられたため、状況が厳しくなったのだ。
 というのも、人手が多いとは言い難い艦なのだが搭載機体は多く、さまざまな資料や食料品を置く場所に困った過去があるのだ。そのため、可能な限り空き部屋を利用して格納庫を空ける形が取られており、結果、個室の多くは物置になっているため、それを片して使うという状況である。
「ああ、そうだ、代わりと言ってはなんだが、補給物資をひとつ、融通しよう。好きなものを一つ選ぶといい」
「え、いいんすかっ」
「ああ、残念ながら全員には行き渡らないし、君たちは実戦経験が浅い。少し強化する必要があるしね、かまわないよ」
 話がわかるぜ、と手を打つイルムに笑って、アムロは司令官室へと戻っていった。ブライト大佐が戻るということで、一番喜んでいるのは彼かもしれない。部隊指令の座から降りることが出来るのだから。
「じゃ、そういうことで、またしばらく悪いな」
「まあ、どうせ二人部屋だしな。気にはならんさ」
 甲斐甲斐しくお茶の用意をするウィンに、イルムはしばらくの間、黙っていた。そして、なあ、と声をかける。彼らしくない、緊張を含んだ声で。
「一つ、聞いていいか」
「…知ってると思ってたよ」
「ってことは…やっぱりグレイスは…?」
 うん、とウィンは微かに答えた。行方不明のままだ、と。
「そっか。…探さないと、な」
 うん、と再び頷いて、ウィンは窓の外を見る。海が広がるけれど、窓は小さい。気づかぬうちに頭を窓に押し付けていて、イルムに腕を取られたときに、額に赤い跡がついていた。
「ぶふっ」
 思わず吹き出したイルムの様子に鏡を確認すると、…確かに笑われても仕方がないかもしれない。
「なあ、甲板いかないか。おれ、軍艦て初めてでさぁ」
 誘われたところで、ウィンもまだ着任して数日、案内など出来るはずもないのだが、艦内各所のモニターと地図で位置を確認しつつ、迷わずに甲板へと出ることが出来た。
「ゲッターチームは研究所に行ったんだってね。こっちはカナザワシティに行くんだっけ?」
「ああ、ブライト大佐との合流が優先らしいからな。時間にはまだ余裕があるし、停泊するんじゃないか?」
「カナザワシティねえ。降りてもしかたないんだよなあ」
 まあな、とウィンは答え、風が強いからと艦内へ逃げ込んだ。逃げ込んだ先はちょうどスクラップ置き場になっており、子供のころならちょっとした宝の山だったかもしれない。
「あ、マジに宝があるぜ」
 隅に転がった丸いものを見つけたイルムが、ウィンを引っ張って連れ込んだ。直せないか、と聞いてくるそれは。
「…ハロ?」
 トロイホースから世界中に広まったアイドル、ハロだ。作ったのはアムロだと聞いているが、なぜこれがこんなところに?
「これ、原種[オリジナル]ハロの複製品だな、最近のミニ量産型じゃない」
「だよな。なあ、お前機械工学専攻してただろ、直らないか?」
 手持ちのキットからライトを取り出し、外面に傷はなく、内部もさほど傷ついているわけではないことがわかるが、それ以上はここでは調べようがない。だが、外面さえ無事なら、中身はそっくり取り替えても問題はないし、人工知能と姿勢制御装置くらいなら設計図さえあれば、難しいものではない。
「やってみようか。…他にはないか、通信機能が試せるぞ」
 沈んだままだったウィンの表情が楽しげになり、イルムはしてやったりと喜んだ。そしてしばらく探していると、小さなハロがいくつか転がっていて、それらも大した破損ではないことが見て取れた。
「あ、でもこれ、足が出ないやつだな」
「ミニ量産型の初期型だ。転がって移動させるくらいなら出来るな
「よし、やろうぜ。道具はあるんだろ?」
「ああ」
 二人で大きなハロ(直系30cm)と小さなハロたち(直系10cm)をこっそりと運び、まずは内部の構造をチェックする。
 原種ハロの動作機構は破損しておらず、動作データも無事であった。ただ、モーターがかなり劣化しているらしく全く動かず、データカードは一部が錆び付いていて、差し込み口側もやはり錆び付いていた。
 小さなハロは表面意外傷もなく、これもやはりモーターが劣化しているだけのようだった。
「どうする、買いに出るか?」
「ちょっとまて、設計図を探してる」
「…設計図?」
 ミニ型ハロは、確か製作キットが出たこともあるから、確かに設計図も入手出来るだろう。だが原種ハロの設計図など出回っていないはずで、落ちていてもそれは相当に怪しい代物のはずだ。まさかウィンがそれを知らずに探しているとも、承知の上でそんなゴミを探しているとも思えず、イルムはモニタをのぞき込んだ。
「…おい…これ…」
「言うな。見るな。忘れろ」
「へいへい…」
 言われたとおりに、モニター上に表示されていた本来入れないはずの裏ルートからデータ倉庫へと侵入した結果らしいもののことは忘れ、目の前のハロたちの外装修理を手掛けることにした。
「なあ、色どうする? 塗装はげてるけど」
「任せるよ。全部違う色にしてくれると有り難い」
「了解っと。…んー、購買に塗料あるかな、ここ?」
「行ったことがないからなあ。ないと思うけど」
「だよなあ。…いいや、どうせ停泊だろうし、俺行ってくるわ」
 半分上の空のウィンに確認を取り、とりあえず必要そうな材料を聞き出していると、船の停泊を知らせる艦内放送があった。イルムはさっそくと出掛け、ウィンも目的のものが見つかったので、修理に取り掛かった。
 外装の分解から始まって、丁寧に壊れた部品を外し、使えるものと取り分ける。磨けば棲む程度のものもあるが、やはりモーターなどは交換するしかなく、イルムの帰りを待たなければならない。
 粗方の作業を終えて、ふと時計を見ると、ゲッターチームがすでに戻って来てもいい時間であることに気が付いた。
「何かあったか」
 
 
 ドッグへと入港した艦内からは、人影が少々減っていた。メカニックからの要望での久々の接岸ということもあり、仕事のない面々は三々五々、カナザワシティへと繰り出していったのである。観光したいと言い出したアムに付き合うダバとリリス、さらに彼らに付き合うことにした甲児、さやかの四人は古い町並みを歩いていた。
 何百年も前の町並みがそのまま残っていることに素直に感心しながら、女性二人の視線は小物屋に向かう。
「あ、これかわいい」
「あ、ホント」
 リリスの呟きにアムがのぞき込み、気に入ったらしい二人がかわいくて、さやかが購入、二人に土産としてプレゼントの運びとなった。
「アム…」
「いいって、気にすんなよ」
 困惑したダバを甲児が笑い飛ばし、さらに恐縮する彼にもついでに色違いで同じものを渡す。
「すみません、ホントに」
 久々にみた謙虚な奴が気に入っただけのことだし、実際にそれは高いものではない。いずれ会えなくなる相手に渡すものとしては寂しいかもしれないが、今は仲間だ、それでいい。
 そう思いはしても口には出さない。照れくさいのと出会ったばかりで別れを考えなければならないことが悔しいのとで。
「そろそろ整備も終わるころだろ。帰るか」
 けれど、ほぼ同時に非常事態を知らせる警報が響き渡る。
「え…これって、敵襲!?」
「悪い、走るぞ!」
 事態を把握せぬままに走りだし、途中の道で、ダバが足を止めた。あるはずのない、見慣れた機体がそこにあったのだ。
「バッシュ!? まさか、ギャブレット=ギャブレー!?」
 同時にアムが同じ方向を見て、バッシュとそのほかの機体を確認する。
「あんの食い逃げ男っ!」
「しつこい〜っ」
 食い逃げってなんだよ、と突っ込みたかったが、今はそれどころではない。敵なのかという確認に、肯定の答えが返る。ただし、今は、との限定つきで。
 
 
 同じころ、艦内のモニターで敵影をチェックしたキャオが、それが見慣れた機体であることに気づき、驚愕していた。
「ギャブレーかっ」
「知り合いか?」
「ああ、腐れ縁って奴だな、敵だよ」
 コウの確認に簡潔に答え、通信機をダバにつなぐ。モニタを通した声はアムロにも伝わり、その言葉でポセイダル軍の機体であることを悟った彼は戦闘配備の指示を出した。
「あいつら、どうやって地球に降下してきたんだ?」
 地球を狙っていようがいまいが、軍の配備を簡単にくぐり抜けられるはずもない。その方法がもしも簡単なものだったら、地球などあっというまに占領されてしまう。
「戦乱のせいで、衛生軌道上に浮遊物が増えてるわ。それが隕石として落下する事件が多発してるから、それに乗じたんじゃないかしら」
「俺たちもそれ、やったもんな。…っと、おいダバ、気づいてるかっ」
『ああ、ギャブレット=ギャブレーだな』
 さすが、と呟くキャオの通信機を通し、アムロが指示を出す声が伝わる。自分たちが戻るまで艦を停泊させると言うその声に、クルーは迷わず了解を答えた。任せてくれと力強い声も伝わってきた。
 それが、軍だよな。
 キャオは思う。指令者の命令に従うのが軍だ。けれどその場にいない人員を切り捨てる判断をするのが本来の指令者の役目。
 自分たちは、どんな札を引いたのだろう?
 一瞬の間のあと、ダバは彼らに必要と思われる情報を叫んだ。ヘビーメタルのうちの数機はビームコートをもって要る、威力が低いと無効化されると。
 キャオは機影から種類を割り出し、知る限りの情報をパイロットに伝えた。
 
 
 キャオの通信を受け、ウィンは機影と照合した。警戒するべきは、やはり大将機のバッシュ、射程距離が通常よりも長い上に威力のある武器をもっている。同じくカルバリーテンプルも要注意だが、それに加えて厄介なのは、ビームコートを持つ三体のアローンか。三体のグライアと性能面で大差はないようだが、ゲシュペンスト以外のビーム兵器は通用すまい。
「ったくあのタヌキども…」
 機体を引き渡されたとき、ウィンにのみ開封可能なメッセージが入っていた。それには試作機という利点を利用して、現行機体の中でも最強のニュートロンビームを装備させたということだった。どんな情報をもっているのか掴めないタヌキである以上、こんな事態も予想していたのかもしれない。
 イルムはまだ帰還していない。出撃出来るほどに整備は終わっていないようだから、それが問題にはならないだろうが、戦力の減衰は少々残念だった。
 だが、とウィンは降り立った大地で敵を見据えた。
 仲間たちの手を患わせるわけにはいかない。自分に可能なのだ、自分がやらずに誰がやるというのか。
 自分の狙いをアローンと定め、その進路を予測する。ゲシュペンストよりもかなり遅いが、優位な位置を取るべきだと判断し、ウィンは加速をかけて飛び出した。
『ウィン、無茶はするなっ』
「わかってます。俺のゲシュペンスト以外、ビームコート貫けないでしょうから」
 む、とアムロが言葉に詰まる。確かにビームが通じないとなると、MSで戦うのは非常に不利だ。彼に任せてしまうのが一番かもしれない。
『判った、甲児くんたちが来るまで、君の判断に任せる』
「はい」
 強制通信のみを残して、ウィンは通信を切った。仲間よりも一足早く出た甲斐があり、狙いどおりにアローンが自分を捕捉している。
「ゲシュペンストの威力、見せてやる」
 時間差で放たれるビーム砲を余裕で交わし、ニュートローンビームを放つ。真っすぐに走る光がアローンを貫き、撃破する。
 撃破したことを確認もせず、自分を捕らえるセンサーを逆に辿り、更に2機を屠り、地上へ降り立つ。
 狙っていた3機は落とした、とウィンは追いついてきた仲間を守る位置へ下がった。ほぼ全機が前線に並んでいるが、トロイホースは甲児たちが守るだろう。いや、これ以上奥へ進まれぬようにくい止めればいいだけのこと。
 町を破壊せぬようにと、平地へ陣取る。隠すもののない地形は不利だが、かまわない。
 功を焦っているのか、大将機は動かないのにグライアが突っ込んでくる。だがそこは既に陣形が整っていて、集中砲火を浴びて落ちていく。
 一撃で落ちないのは、威力が弱いからだとウィンは気づいた。確かに自分もニュートローンビーム以外の武器は弱いことを知っている。今は一撃で倒せるけれど、…追いつかなくなる日がすぐに来るだろう。
「それは、今じゃない」
 ネガティブになる、それは彼の悪い癖だ。未来をつかみ取るためにここにいるのに、悲観してはいけない。
『いよう、お待たせっ!』
 思考の切り替えを助けるかのように、甲児の声が響く。来たか、とウィンは位置を確認した。四人とも出撃し、足の速い2機はすぐに陣地へと追いついてきた。
 先日の戦闘で、二人の技量は判っている。任せても大丈夫だろうと判断し、ウィンは前線を離れた。レーダーに移る奇妙な反応を調べるためだ。
 
 
「アム、出過ぎるなっ」
『あいつがいるの、ハッシャ=モッシャ!』
 最前線へ飛び出すアムを引き戻そうとしたはずなのに、ダバは言葉を紡げなかった。ずっと、姉の敵と言っていた相手を目の前に、引き下がることが出来る彼女ではないことを知っている。
 幸い、前線の戦士たちは優秀で、アムを守る位置へと動いてくれている。気の済むようにやらせるしかない。
『止めないのか』
「僕も、同じこと、たぶんやります」
 通信機越しの声が、緑茶を淹れた相手である気がしたが、確めなかった。向こう側の相手が笑ったような気がしたけれどそれきり通信はなく、正面の敵を見据える。
『ハッシャ=モッシャ! リーリン姉さんを殺しておいて、よくもっ』
 叫ぶより早く、パワーランチャーが狙いを定めていた。
『だまされるやつがわりぃのよ!』
 白い閃光が、グライアを撃つ。けれど、パワー不足か打ち落とせない。アムはそれを承知の上だったのか、即座に回避行動に移っている。
 狙い定めて撃たれたはずの、実戦経験豊富なもと海賊の砲撃を難無く躱し、ディザードは更に距離を取る。
『ダバ=マイロード!』
 声が伝わってくるのと同時にロックオンの信号音が響く。相手の使う武器を見定めて正確に回避するのは、彼の得意とするところだ。
 大丈夫、ペンタゴナと何も変わらない。
 降り立った直後のような極限状況ではない。見知った相手で油断が出来ないこともわかっているけれど、勝てない相手ではない。
『貴様に恨みはないが、これも出世のため…覚悟!』
「志が低いぞ、ギャブレー君!」
 出来るならその程度で追いかけてこないで欲しいところだったが、来てしまったものは仕方がない。
『異星人などに肩入れする貴様に言われたくないわ!!』
 その言葉が、リリスの逆鱗に触れた。ふわりと浮いたリリスから柔らかい光が散り、ダバの精神が研ぎ澄まされる。直後、放たれたパワーランチャーの光がギャブレーのバッシュを貫く。
 しかし、シグナルは失われていない。次が来ることに気づき、反射的に回避行動を取ろうとしたとき、アムのディザードからも放たれたサッシュが、バッシュを貫いた。
『食い物の恨みは恐ろしいんだからねっ!』
 よくやった、と声に出掛けたが、その一言で苦笑しか出てこない。それに、彼女の狙う敵はまだ、落ちていない。
 ハッシャのグライアが、狙いをアムに定める。どの機体でも狙えるのに彼女を狙うのは、彼なりの思いあってのことなのか。
 けれど、撃たせるわけにはいかない。脱出装置は完備で、事故がないかぎりパイロットが死ぬことはない。ここまで生き延びた兵だ、その程度で死にはしない。遠慮はいらない。
「やらせるかっ!」
 ぎりぎりの射程まで走り、Sマインを打ち込む。続いて反転したアムがランサーで切りつけざま走り去る。一瞬の間があいて、グライアが小規模な爆発を起こした。
 脱出装置が働いたことを確認し、二人は残った一機に向き合う。
 甲児たちの活躍で、すでにそのオレンジの一機を残すのみとなっていたが、信号弾が放たれた。この状況下であれば、それは撤退の合図に外ならない。
 けれど、その機体は動こうとしなかった。仲間が拾いにくる気配もなく、しかたなしにダバは前へ出た。
威嚇も込めてセイバーを振り下ろす。これで逃げ出してくれればいい、そう思いながら。
『なめんじゃないよ!』
『女!?』
 伝わってくる声に息を呑む。
『女で悪いか!』
 放たれた光線を咄嗟に回避し、そこへアムがランチャーを打ち込んだ。
『女がなにやってんのよ!』
『あんただって女でしょうが! あたしはこれでも13人衆なんだ、盗賊あがりのあんたとは違うんだよ!』
『何で知って…』
 切りつけられたセイバーをディザードは紙一重で躱す。
『あ、ハッシャのやつか』
 躱した先にいたMSの名は彼女には判らなかったけれど、セイバーのような武器が振り下ろされ、その機体は動きを止めた。
「行ったか」
 息をついて、リリスを見る。妖精は相変わらずふわふわと漂っていた。あの瞬間の奇妙な感覚は、まだ馴染めないけれど大切な相棒だ。
『一体、やつらは何が目的なんだ? 地球を混乱させて、何のメリットがある?』
 アムロの呟きに、コウが答えた。わかんないことだらけだ、と。
『敵の目的が判らなければ、作戦の立てようがないわね』
 そして結果的に、後手に回ってしまう。それは、…敗北をも意味することにつながる。
『おーい、人が倒れてるぜ?』
 データと使える部品の回収のために降り立っていたキャオが、通信機から伝えてきた。居場所が視認出来たのですぐに降りる。
「気絶してる…」
 上半身を抱き上げたダバの肩で、リリスが呟く。
「わお♪ よく見ると別嬪さんじゃないの」
「誰だ?」
 キャオとアムロの声がうるさかったのか、その女性が身じろいだ。
「気が付いたか」
 のぞき込んでいるのは声を掛けたアムロではなく、また自分が抱き起こされていると気づいて慌てて暴れ、ふりほどこうとするのを甲児が押さえた。
「わ、よ、よせっ」
「このっ! おとなしくしろってのっ!」
 振り回した手が当たりそうになってダバが反射的に避け、結果として甲児が羽交い締めにした、のだが。
「くっ…どこを触っている!」
「あ、わ、わりぃ」
 少々軽率な場所だったことに気づき、甲児が腕を離すと、もう暴れようとはしなかった。
「君はさっきの部隊の兵士だな。名前は?」
 答えは沈黙で返されたが、ふとダバは聞いた声であることに気が付いた。
「もしかして、さっきの…」
「私はポセイダル軍第13遊撃師団司令ガウ=ハ=レッシィ。それ以上はしゃべらん」
「かわいくないわねえ」
 アムの言葉は、ダバの言葉を遮ったことに対するものだと、誰もが理解した。その後で連行される間も、レッシィは非常におとなしかったので。
 
 
「あ、ウィンさん」
 皆より遅れて入って来たウィンに、ダバが声を掛けた。みな既にブリーフィングルームへ移動していて、彼はウィンを待っていたようだ。
「…何してたんです?」
 ゲシュペンストに積まれたいくつかの品は、何かの部品やただの金属の塊のように見えたが、それ以上わからない。
「…いや、奇妙なシグナルが出ていたから、調べに行ったらあれがあったんだ」
 その場所にあったのか、壊れていないからなんらかの信号があったのかは不明だが、とりあえず役に立ちそうだったので、すべて運んできたという彼に、余裕だなあと感心する。
「俺じゃないよ。…因縁ありそうだったし、余裕もありそうだったから任せただけだ」
 あ、とダバはあの通信の相手がウィンであることに気づいた。そういえば彼は、あのとき前線にいなかったような気がする。
「それより、捕虜が捕まったって?」
「ええ、僕らと同じ星の人間です。しばらくは独房入りだそうです」
「ああ、ブライト大佐に任せるんだな。大丈夫、ここの食事は美味い。バカなことをやるやつもいないさ」
 それは別に心配していなかったけれど、ダバは頷いた。
「ウィンさんは何処へ?」
「一度シャワーを浴びてから行くよ。油で汚れてるしな」
「ああ…はい、じゃまた後で」
 踵を返すウィンを数歩見送り、ダバも自分の部屋へ帰ろうとした。と、そんな彼をウィンが呼び止める。
「なあ、ダバ」
「はい?」
「玩具とかロボット、好きか?」
「好きですよ、特に作るのが」
「…なら、彼女の処分が決まったあとで俺の部屋、来ないか?」
「ウィンさんの部屋へ?」
 ああ、とウィンは頷いた。おもしろいものを見せるから、と。