腕に血が滲んでいる。二筋のそれは、イーリスの置き土産…。
私は、拳を握り締めた。手の中にはあの、赤い石…。
「無駄に…なってしまったな…」
ここから出るときに使えと言われた。
けれど…イーリスを失ってしまった。ここから出ても…私にはもう、何も出来ない。
それくらいならば、いっそ私もここで…。
「…ミゾティ…?」
人の気配を感じて私は顔を上げた。
そこには、あの少女がいた。私を、見上げて。
「私を…責めるか?」
いや…責めて欲しい。託された約束を、果たせなかった私を。彼を守れなかった私を。
なのに…何故?
何故、私を…優しく見られる?
その瞳は、まるで神話に出てくる女神のように緑に輝き、あふれる光は陰りこそあれど慈愛深き女神の光。
何故、彼女はここにいるのだろう?
シオンさまやメイでさえ、あの悲鳴と共に消えた。彼女も、消えたはずなのに。
何故、彼女はイーリスにあれほど詳しかった?
そうだ、彼女は知っていたのだ。イーリスが自分から話すとは思えないような、心の奥底の想いを。
…何故、知っていたのだ?
魔力など持たない少女たち。何故、彼女たちはここへ来ることが出来た?
ミゾティ 忘れな草の名を持つ少女。
一人だけ、いつも少女たちから離れていた。彼女といると、誰も近くへこなかった。
あれは、何故だ?
不思議にも思わなかったけれど…それは、彼女が人ではないものであることを、示してはいないか?
けれど少女は何も言わない。何も言わずに、私の手を優しく包む。
…そう、私の手。その中には、託されたものがある。
『炎が封じてあります〜』
そう、出口を作り出すための。
『本人に救われる気がないと、出口がないですからね〜』
彼らは…まさか、知っていたのか?
イーリスにその気がないことを。だから、これを…?
ミゾティが、迷う私の手を強く握る。その目が愛を訴えて、次々と少女は姿を変える。
町の少女。王子。姫。シルフィス。ガゼル。シオン。メイ。アイシュ。キール。
彼を、愛するものたちの姿。
「そうだ」
私は、何故諦めようとした?
彼らが私に託した理由を、私は知っている。
私にしか出来ないこと。それがあるから彼らは私に希望を託した。
私の手には、力がある。
彼を傷つけるかもしれない。
けれどそれを恐れて、イーリスを永久に失うなど、愚の骨頂 !
握り締めた石が、熱くなる。少女が私に笑いかけて…勇気を、くれる。
そうだ。
傷ついたら、癒せばいい。
生きている限り、人は傷つく。だから、彼が傷ついたら、守ればいい。傷が癒えるまで、守り抜けばいい!
「イーリス 」
皆が貴方を待っている。
何よりも、私が貴方を待っている。
「炎の石よ 受け取れ、この思いすべて、お前の力だ!」
私は、石を 叩きつけた!