ン?
何だ、足りなかったか?
いや、実際この話は長くなるんだ。
多分、クラヴィスさまに聞くのが一番手っ取り早くて詳しい話が聞けるんじゃないか?
だが、それでは満足出来ないというなら…そうだな…。
ん?
ああ、ちょうどいい。
お〜い、ランディ〜。
何ですか、オスカー様、大声で。
って、あれ、何でみんなここにいるんだ?
え、お茶会?
4時から聖殿であるんじゃなかったのか?
え、知らないって?
だって、みんなあんなに楽しそうに…
った〜、オリヴィエさま殴らないで下さいよ。
貴方の力は強いんですから。
え?
お詫びにクラヴィスさまの話をって…何のお詫びなんですか?
いって〜…わ、わかりましたよ、話しますよ。
う〜…でもクラヴィスさまのことですよねぇ…。
う〜ん…おもいだせないなぁ…何かあったっけなぁ……。
あ、でもまてよ、確か何かが…。
あ〜あ…家に帰りたいな…。
この聖地へ来て…ようやく一年が過ぎようとしてる。でもそれはこの聖地の時間だから…実際には、何年がたっているのか、わからない。
不便だな、一定しない時間の流れって。
母さん…元気かな。元気に決まってるか、おれの母さんだもの。
…この湖は、子供のころ遊んだ湖に似てる。だからくるのか、それともここにくるから家に帰りたいのか…。
湖に手を入れれば、冷たくもない。夏の夜の海…そんな感じの冷たさだ。
そうだよな…ここは外界とは違う世界だ。
夏に近い常春の楽園…でも俺は、冬の雪が好きだな。
そうだ、そのうちに雪山にでも遊びに行こう。
あ…れ?
あの人影…クラヴィスさまかな?
お一人だった…今なら聞けるかもしれない。
最近は機嫌が良いって言ってたし…。
木の根元に座るクラヴィスさまは、…瞑想でもしているのか、身動き一つしない。
え…鳥…?
うわ…すごい、集まってくるんだ、クラヴィスさまのお側に。
これじゃ、側へはいけないや…鳥たちを脅かしてしまう。
まあ…良いか、今日でなくても。
うん、別に聞かなきゃいけないことじゃないし…うん。
いつ機会が巡ってくるか分からないけど…いいや。
「え!? っと、うわっ!」
と、鳥だけじゃない!
兎がたくさんいる〜ってつまづいちゃったじゃないか。
…視線?
後から?
あ、まさかっ!
「…大丈夫か?」
ク、クラヴィスさま…。
「だ、大丈夫です、すみませんうるさくしちゃっ…て…?」
なんか…兎がよってくるんだけど…俺に。
「どうした…何かあったのか? 兎が心配してるぞ。元気が取り柄の風の守護聖が元気がなくては」
あの…兎って…兎の言葉分かるんですか、クラヴィスさま…?
「さぁな。…まあ、今のは私の思いでもあるのだが」
…クラヴィスさまの?
「…ここへ来て一年か…そろそろ家に帰りたくなるころじゃないのか?」
うわ…見抜かれてる。
「見るか? 古郷の様子を」
「え?」
見る…って?
「水晶の…魔法だな。あいにく水晶玉は手元にはないが、この湖が代わりをしてくれる」
どうする、と無言の問が聞こえる。見たい…それはすごく。
でも…もし、変わり果てていたら?
「最近は聖地の時間の流れは安定している…大きな災いがあった話もきかないから、大丈夫だろう」
クラヴィスさま…俺の心がわかるんだ…。
「お願いします」
見られるのを我慢しても意味がない…せっかくだから。
「では、湖に手を入れて…思い出せ、故郷の風景を。
湖はお前の心を辿り、故郷を映し出す…今の風景を」
…見えた。
あれは、母さんだ。
あれ、赤ん坊がいる…弟が増えたんだ。会いたいなあ…でも、さすがに無理だ。主星を離れるわけに行かないもんな。
え?
母さん…こっちを見てる?
あ…!
気が付いたら、俺は少なくとも自分の執務室ではない部屋に寝かされていた。
多分、ここは…クラヴィスさまの執務室だと思うけど。
でも、誰もいない…あ、時計がある。へえ、曜日着きなんだ。
なんだ…昼休みの時間か。…あ、しまった、仕事サボってたのがばれたな、これは。
ん?
果物のカゴに何か書いてある…
PREASE EAT ME?
宛て名は…あ、俺だ。ってことは、これは…。
嘘だ〜クラヴィスさまの仕業〜!?
あ、あの人て随分茶目っ気があったんだ…信じられないけど。
…ありがたく、いただきます。
あ、おいしいや。
…あれ?
この部屋いやに暗いな…。ああ、カーテンがひかれてるのか。
そういえばこの部屋って2階にあるんだよな。…結構高い位置にあるけどどんなふうに見えるのかな?
俺の部屋、ほとんど何も見えないもんなぁ…。
…へぇ、けっこう遠くまで見えるんだ。
やっぱり窓を隠す木がないっていうのはいいよなぁ…。
あれ、誰か外にいるみたいだな。あ、あれはクラヴィスさまとジュリアスさま!?
ま、まずいぞあの組み合わせは!
うぐっ
慌てたせいで喉に詰まらせちゃったよ。ってそんなこと言ってる場合じゃ無くて!
よっ!
せーの、キャット空中三回転!
べしゃっ
失敗。なんちゃって…いてて。
ちょっと着地に失敗したかな。大丈夫、平気平気気にしない!
あ。
でもないか……お二人に見つかっちゃったもんな…。
「…大丈夫か?」
「かなり派手に落ちて来たようだが…ケガなどはしていないだろうな?」
クラヴィスさまとジュリアスさまに同時に問いかけられて、一応身体をあちこち調べてみる。
「大丈夫です、丈夫ですから、俺」
「そのようだな」
クックと微笑うのは…クラヴィスさまだった。この人微笑うとすごくやさしい…。
「あまり危ない真似はしてくれるな」
ほっとしたようなのはジュリアスさま…あれ、話か何か、していたんじゃ…?
「ああ、気にするな、話というほどのものではない。…では、わたしは仕事があるので失礼する」
え?
あの…ジュリアスさま…?
取り残された…クラヴィスさまは?
あ、まだいらっしゃるか。…誰もいない…すぐ側の部屋はカーテンが閉まってるってことは誰もいないのかな?
「あ、クラヴィスさま、先程はありがとうございました!
果物も美味しかったです!」
「そうか。それはよかった。…どうした? …何か聞きたいことでもあるのか?」
「え…あ、は、はい!」
うわ…鋭いなクラヴィスさまって…。
「あの、クラヴィスさま」
えっと…えっと、言葉が続かない。
え〜い俺も男だ!
勇気を出せ!
「あのジュリアスさまと仲がよくないって、本当ですか!?」
だって、他にどう聞けばいいのか…。
俺の台詞に困惑してるのかな、クラヴィスさま?
「…いきなりそうくるとは思わなかったな」
「す、すみません無躾に!」
「別に構わないさ。…そうだな、その勇気に免じて話しておこうか」
そう言って、クラヴィスさまは少し長めにお話しをして下さったんだ。
幼いころのこととか、今のお二人の関係とか、ね。
で、結局…結論としては、回りが心配するほどお二人は仲が悪いというわけじゃないってことだった。
ただ、考え方の違いで随分衝突するけど…それはまあ、生きてるってことだし、ね。
「でも、クラヴィスさま…どうして他の守護聖とかにはそのこと、おっしゃらないんですか?」
「言ってもどうにもならない…というのが本音かな。誰かが無用な心配をするようなら話しもするが…皆、これでも分かっているからな」
それだけおっしゃって…仕事が残ってるって帰られたんだ。
う〜ん…余計なお節介だったかなぁ…ま、いいや。
気になってたことは聞けたし、故郷の様子も知ることが出来たしね。