注射の上手いひと、下手なひと。
注射の上手い・下手は、あってほしくないけど確実に存在するという話。
看護師が優しく親切で親身であることは、おそらく病院に来るすべての人が望んでいることだと思います。
(本当の意味での「優しさ」とは何か、未熟者の私はよく悩んでしまうのですが、それはまた別のお話ですね)
病院にきて、受付をして、医師の診察を受けて。
必要なら採血検査や注射・点滴の指示が出ますね、普通は。
ま、所によっては医師が点滴の穿刺をするところもあるでしょう。
しかしほとんどの場合(特に個人経営の医院に於いては)、この注射点滴は看護師のお仕事です。
病院では、医師よりも看護師のほうが多く、ひとりあたりの担当患者数が圧倒的に違います。
看護師も忙しいのですが、医師が担当する全ての患者の採血・注射まで行うのは無理なのです。
(注射に慣れていない医師よりも、普段からやってる看護師のほうが上手かったりもするのよね、実際。)
口と態度が悪くても、注射の上手い看護師。
とても優しいけれど、注射が下手な看護師。
総合的に見ればどちらもよろしくないのですが。
医師に「血の検査をしましょう」、あるいは「点滴をしてから帰ってね」と言われた場合だとしたら。
前者の看護師に当たった方が嬉しくありませんか?
日々、ぶすぶすと注射針の穿刺ばかりしてる私ですが、自分がされる側になったならやっぱり痛くないほうがいいと思う。
口や態度が悪いのは、文句を言えばいい。何度も何度も失敗されるよりは、ムスッとした顔でも一度で終わらせてくれた方がマシというものです。
臨床の場で、看護師に注射が任される場合が多いのは前述しました。
この技術は、必要なこととして看護学校でもちゃんと教わります。ちゃんと、校内実習で練習するところもあります。
……ただし、ところによっては赤いインクを血液の代わりに流す練習用の人形の腕で。
恐ろしいことに、この人形の腕での練習だけで授業を終了してしまう学校もあるのですよ。これは本当に実話。
私の通った学校では、学生同士で腕と血管を提供しあって実習しました。
採血・静脈注射、筋肉注射、皮下注射、皮内注射の全ての種類の注射を、新人看護師に施される恐怖を身を持って体験したのです(^^;)
看護師のほとんどのひとは、自身が患者に行った初めての注射の場面を覚えているのではないかと思います。
初めの頃は注射に必要な物品を揃えるのだけでも、おっかなびっくりだったりするものです。
スタートラインは、医師だろうが看護師だろうが検査技師だろうが等しく同じです。
しかし確実に、注射が上手いひとと下手なひとがいます。
では、その違いは何か? 考えられるのは、
1、穿刺する場所
2、刺入角度と速度
3、針そのものの問題
4、穿刺する血管の問題
上に挙げた1と2は、看護師の技術力に関する問題。残る3と4は、それ以外の問題です。
3の針そのものの問題とは、使用する針の鋭さのことです。注射針は使い捨て(ディスポーサブル)製品を使っています。
ですから、針先が磨耗する事は考えられませんが、器械で大量生産されるもののなかには、針先の鋭さが甘いものがあるのです。
こればっかりは、顕微鏡で針先を見ないことには判別できませんので……運、ですね。
4は、患者さん側の問題。
注射のうまい看護師だとクリアできる問題でもあります。
まず、血管のもろさ。 血管壁が薄かったり、ご高齢の方の血管は、血管に弾力がなく、洩れやすくて難しいのです。
そして、血管内腔の狭さ。 つまり、血管壁が厚くなっていそうなひと。 それから、肥満体型のひと!…これが一番難しい。
肥満体型のひとは、肉が血管の上にこんもりとあるので、皮膚表面から血管までの距離があり、穿刺角度が急になります。
距離が遠いぶん、そのあいだに神経が走行しているリスクが高くなり、非常に怖い。
しかしまあ、血管があるのがわかればまだマシなほうです。深くても血管があるのが分かれば、まだなんとかなる。
中には、どこを探しても血管がわからないというツワモノがいるのです。
駆血しても、手を温めても軽く叩いてみても、手の甲なのに全く血管が見えない、というのは……なかなかすごいです。
(駆血;注射の際は、ゴムで腕を縛って静脈血の流れを一時的に留めてうっ血させ、わかりやすくすること。)
余談ですが、肥満は、いろんな病気の温床になります。
高血圧、脳梗塞、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症、糖尿病…内科領域だけでなく、整形領域にも影響します。
注射だけではなく、処置、移動にも困るので、間違いなく看護師にも倦厭されます。
それから、手術に関してもリスクが高くなるし…縫合するのが大変なので。
あと、「一回で終らせてね」とかいってプレッシャーをかけてくれると、失敗率は格段に上がります。
ずうずうしくなってきた私とかだと、「プレッシャーかけないでよ、絶対失敗するから」と笑って釘を刺したりもしますけど(笑)
どうしても無理なときは、さっさと他の人に代わってもらったほうが無難です。
身体の調子の悪い時は注射の失敗率も上がりますし、相性の悪い血管というのもあるので。
そして肝心な、看護師の技術力に関する問題。
1の穿刺する場所とは、つまり針を刺す場所のこと。
手の甲よりもはるかに肘の内側の方が痛くない。肘の内側にしても、内側よりも外側のほうが動脈穿刺の危険がなくて安全。
一番痛みが少ないのは、肘の裏側の正中(真ん中)を走っている静脈です。血管も太いし、安定した血流量があって充分な採血ができます。
点滴などで、時間がかかる場合や途中で身体を動かす可能性のある場合は、前腕(手首から肘までのあいだ)で血管を探すのが普通。
確実に血管確保したい場合、サーフロー針という留置針(穿刺後、針は抜去し、やわらかいチューブだけを血管内に残すもの)を使います。
必要だから針を刺すわけですが、できれば痛いのは一度で終らせたいものですからね。
それから、2の刺入角度と速度。
皮膚表面に対する針の角度と、針を刺入する速さのこと。角度が浅いと、皮膚の浅い所をより多く針が通過することになります。
皮膚表面には、痛みを感じる痛点がたくさんあるため、痛みを強く感じます。
また、毛細血管も多数存在しているため、内出血を起こす原因にもなります。
それから、刺入速度ですが。
ゆっくり刺されると、非常に痛い。これは実体験をもって断言します。痛いのよ、ものすごく痛い。
注射が痛くないと評判の看護師をよく観察すると、針をスッと手早くさしている事が分かると思います。
これが、痛くない注射のコツ。
自信がなくて慎重になろうとして、ゆっくり針を刺入しているのでしょうが…これは逆に迷惑なのよね。
新人看護師や、注射が下手なひとは、だいたい針をゆっくり刺してる。
もっとも、「そこに血管がある」というのは、皮膚を通して透かし見ているのと触れて探しているだけです。
直接、目で血管を見て挿入しているわけではないのです。
だから、もうひとつの内緒のコツ。
それは…… 「勘と思いきりの良さ」。
もちろん、技術力に裏打ちされた上で、の話だけれど。
それから、できるだけ注射の痛みに患者の意識を集中させないようにするのもひとつの技です。
世間話をしながら、その間にサックリと刺す。患者さんの意識は、会話の方に向いてますから、それほど痛みを強く感じないものです。
「これから針を刺されるんだ、痛いだろうな〜」と構えているのと、そうでないのとは、痛みの感じ方が明らかに違うようです。
心理的・精神的な痛みというのも実在しますからね。中には、生来の「痛がり」のひともいますから……。
ま、これらの技を使い、コツを掴んでいても、注射には間違いなく痛みはあります。
なんせ、針を刺しているわけですから。
痛いのは患者であることを忘れずに、謙虚かつ技術力の高い看護師でありたいですね。