《短編小説》
魔女の宝くじ

作・のりさん(現在名: NoRiA)


それは、ある年のクリスマス1週間前のときのことだった…。
クリスマスの日に行われる、MGパーティの主催者を務める事になった矢口は、「ああ、弱ったなあ…。 予算が3万円しかないなんて…。 これじゃあ、ほんの5uの牛小屋を借りるだけで精一杯だ…。」
確かにそんな所でMGくんが喜ぶわけがない…。
困り果てた矢口は、あちこちの友人や親戚などに当たってみるが、この不況の折、みんなお金なんかないと言い張り、まったくだめ…。
そうこうしているうちに、辺りはもうすっかり真っ暗闇…。
「だぁーっ!! いったいどうしたらいいんだーーーっ!!」
そんな矢口の目にふと飛び込んできたのは、1軒のポツンとした小さな宝くじ売り場であった。
「こうなったら、この3万円を宝くじに賭けてみよう…!」
売り場の前まで来た。
「あのー…、宝くじ連番を30袋ください!」
すると売り場の店員、「おやおや、お若いの。 こんな時間にいったいどうなされたのです?」
よく見ると、その店員は60〜70歳くらいの弱々しい老婆であった。
鼻は天狗のように長く、それに長い帽子をかぶって、まるで魔女のようであった。
さらに老婆は「今頃、こんな大金をつぎ込みに来るなど、きっと何か深いわけがあるのじゃろう…。
そうじゃ、あんたの生まれた月日と年齢を教えておくれ。」
「せ、生月日と年齢ですか? 8月19日、28歳ですが…。」
と言って、老婆は一袋のくじを差し出し、「ほれ、それならこの袋がいいじゃろう…。」
袋の中から一枚のくじを取り出して見てみると、そこには[081928]という番号が書かれていた。
「おっ…おばあさん、これはいったい…!?」
「なあに、疑う必要はない。 わしの言う通りにすれば、絶対に大丈夫じゃよ…。」
「本当かなあ…、ん? あっ、あれ!? おばあさん!?」
慌てて辺りを見まわすが、そこにはおばあさんの姿はなかった。
「不思議なおばあさんだ…。」

− 3日後 −

矢口は家でテレビを見ていた。
〈さあ、今日はいよいよ宝くじ当選番号の発表です!!〉
「宝くじか…、そういえばこないだのくじはどこやったっけな…。」
ガサゴソガサゴソ…。「おっ、あったあった!」
〈まずは、1等前後賞合わせての当選番号の発表です!! まず、ルーレットが回転し始めました! さあ、最初の数は……、あっ、0ですね!〉
「ん!? 0だっ!?」
〈続いて2番目の数は…、8です!〉
「むむっ!? 8もあるぞ!?」
〈3番目の数は…、1です!〉
「いっ…1もある!」
〈4番目は…、9です!〉
「およよよ…! 本当かよ!?」
〈5番目は…、2です!〉
「おいおいおい……、まさかまさか…!?」
〈さあ、最後の数やいかに……、あっ、8ですね!〉
「……あっ、当たった……!!」
〈あれ…? 間違えました、9ですね! 失礼致しました…。〉
「……へっ!? 間違えただと…!?」
しばらく、矢口はただ呆然とし続けた…。 だが…!
〈今回は宝くじ50周年記念スペシャルボーナス企画として、今回、1等前後賞と上5ケタが同じ[08192*]のくじに限り、Wチャンスとしてもれなく300万円がもらえます! そのようなくじをお持ちの方は、決してそのくじを捨てたりしないようお願い申し上げます…〉
「なぬ!? Wチャンスだぁ!? …こいつは行くっきゃない!!」

そして…

「やったぁーーー!! これが300万円か…! くふっ、ぬふふふふ、わははは、あーっはっはっはーーーっ…!!! ぎゃーっはっはっはっ……うぐっ、げほっ、ごほっ…!!」
そうして、短期間で見事大金を手に入れた矢口は、早速10kuもの結構いいホールを貸しきることが出来た。
さらに、市内で唯一300万円を当てた人として、市にすっかりもてはやされた上に、市内の有名人にまでなってしまった…。
あるテレビのバラエティー番組にまで出演してしまった……。
そうしてるうちに、今回のパーティに出席したいという人が急増し、初めは150人ほどだったのが、一気に5万人まで膨れ上がってしまった…。

そして……、パーティは無事に終わった…。

「はぁ、やっと終わったな…。 まさか、あんなにたくさん来るとは思わなかったぜ…!」
そこで矢口は、あのおばあさんにこないだのお礼をしようと、余ったお金で正月用のものすごく豪華な巨大鏡餅をおみやげに、こないだの宝くじ売り場を訪れた……、が…!
「あれぇ、ない…? ちゃんと地図で確かめてきたはずなのに…。」
そこへ通り掛かりの女性が…。
「あの、すみません、ここにあった宝くじ売り場知りませんか?」
「は!? 宝くじ売り場!? やだ、あんた何言ってんのよ! ここは昔っからずっと、こういう森なのよ!?」
「ええっ!? そっ、そんなバカな…!?」
「そうそう、この森には昔、人のいい魔女が住んでいたという伝説があるのよ。 だけど、当時この辺に住んでいた村人達は魔女をすごく嫌ってて、その魔女を見つけるやいなや、すぐに釜茹でにしてしまったという話よ。 何か信じられないけどね。 それじゃあね。」
「人のいい魔女…。 それじゃあ、あのおばあさんはいったい…!?」
謎が謎を呼び、その後矢口はしばらく眠れぬ夜が続いたのであった…。
そう、あのおばあさんこそ、伝説の魔女だったのである。
あのとき、なすすべもなくすっかり困り果てていた矢口に見兼ねたその魔女が同情し、幽霊となって彼を助けたというのであろうか。
そしてその後、矢口があの魔女に会う事は二度となかったのであった…。
さらにあれ以来、矢口はすっかり宝くじにはまるが、大当たりを出すことも二度となかったのであった…。

《完》


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