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「ブギーポップ・シリーズ」
(電撃文庫・上遠野浩平)

なれそめ

 元々は応募小説だったこのお話。なんかそんな小説あったねー、って程度しか認識してなかったです。時たまCMでワンショットみたいな感じでアニメシーンが流れたりしてました。その程度の認識でしたね。
 それが変ったのは、やはり正式にアニメ放映が決定してから。まあ話題の作品だし、一応は見てみようかと第一話を視聴……しかしこれが大はずれ(^^;。タイトルロールのブギーポップが出てきたぐらいはわかったものの、なんか欲求不満の残るストーリー……あたしゃ、あっさり見るのを放棄いたしました(笑)。後になって考えて見れば、こう言うのも有かなと思わなくもなかったですが、初めて見る人にとってはむちゃくちゃ不親切なのです(メディアミックス戦略の悪パターンですな)。
 しかし私には一つの持論がありまして、それが原作優先主義です。元ネタが小説だと、アニメ化や映画化による改悪が多く発生するんですな。それで原作に手をつけてみることにしたのですが、すでに九冊も出ているものを全部読むわけには……それに出来が悪かったらどうしよう……というわけで、第一作のみ読んでみることにしました(^^;。
 所がこれが大当たり(笑)。次の作品を読んだところで完璧に魅せられ、全冊購入と相成りました(^^;。かくしてこんなページを作る羽目に……でもまあいいや(笑)
 しかしこのシリーズは、実におもしろい構造しています。とある人はノベルゲームみたいな構造だと言ってましたが、確かにそんな感じです。あと変なヒーロー物になってないところも珍しいです。確かに変なやつ(笑)が出てきますが、直接的な行動はあまりしないし、出てくる登場人物は普通の人間が多い……とはいえ小説中に人物ですから、なにかを持ってたりしますけど。普通っぽい所に、不思議な物が存在している……そんな感じのお話なのでした。
 是非皆さんも読んでみてください。そしてこの壮大な世界を味わってみてください。

出版順解説

 それでは、これまでに出版された本を順番に見ていきましょう。出ている冊数が多いのでどれから読んでいいのかわからないという声も聞くのですが(^^;、基本的には出版順に見る方が良いと思うのです。
 以下ではネタばらしバシバシなので、それでもいい人は読んでくださいねヾ(^^;。

ブギーポップは笑わない

 栄えある第一作ですね。ぶっちゃけた話、化物退治のお話です。しかし、そのストーリーの展開方法は意表を突いています。イントロからして変な感じです。その前半部分は最初見ただけではよくわかりません……が、読み返してみると、これこそが始まりだったとわかるはずです。でも上手いというよりはひねくれてるなあと言うのが私の感想(^^;。しかし、そんなのは序の口……。
 時系列を追うのがごく一般な手法ですが、本作はちょいと毛色が違います。本作は5話構成となっており、一応本筋は存在するのですが、最終話をのぞいて各話同士の直接的繋がりは薄いのです。例えば第一話の主役の竹田君は本筋には一切絡んできません(笑)。時系列的には本筋の初期からクライマックス後までにあたりますが、全然絡んできません。しかも、後の話にも絡んできません。エピローグ部分にちょっとひっかかるだけです。もちろん本筋関係者との会話はありますが、本筋には全く関係がない。実に不思議な感じです。第二話でも事情はあまり変りません。本筋に関連する事柄こそ出てきますが、第二話のおまけみたいなものです。ただ登場人物は、のちのち影響を与えてくのですが……。
 で、第三話でようやく本筋部分が現れます。化物の正体と今回の物語の元凶ですね。でもここもなにか違う……本筋からやはり外れているような気がします。本筋部分を進めるという感じが無いのです。どうもこの辺りむずむずしちゃいます(^^;。
 第四話に至っては、最後の方はエピローグよりも後の話まで飛び出す始末。しかもこの主役、本筋とは全然関係ありません(^^;。本筋関係者のちょっとした友達と言った役どころなのです。なんでこんな話がはいってんでしょうかね?……と、実は、その本筋関係者というのがくせ者で、その関係者自身も本筋に間接的に絡んでくるだけなのですが、その間接的関与の仕方がほとんど直接的なのです……結果的には物語を決定づけてしまったという点で。ところがその関係者のことを一番描写しているのがこの第四話なのです。
 つまり、第一話から第四話までの話は、人物描写に重点を置いて本筋を無視するという暴挙に出ているのでした。各話は本筋を進行するためには役立たずなのです。ちゃんと内部では時系列的に前進しているのですが、本筋に合流するわけではない。本筋と平行に存在しているのが第四話までということになるのです。そして、それらを一つの物語りにする作業は読者に委ねられているのでした……うーん、確かにノベルゲームを何回もプレーしているような感じになるな(笑)。
 さて、さすがに最終話ともなると粛々と進行していきます。この辺りには特に新規性は感じられません。それまでのしかけだけで充分です(^^;。一応はめでたしめでたしなのかな?
 こうしてちょっと不思議な物語は終わりますが、何度も読み返すと物語の構造が見えてきます。この時はああいう状態だったんだとか……伏線を張りまくってますから、この作業が実に楽しい(笑)。だがしかし……続編を読むと、そんな作業に嫌気が差してくることでしょう。ほんの序の口だったんです、この「ブギーポップは笑わない」は。

VSイマジネータ− Part1、VSイマジネータ− Part2

 さて、第二作です。でもいきなりPart1です(^^;。最低でもPart2があるはずで……実際そうでした。第二作以降からは上記のタイトルに加えて「ブギーポップなんたら」というサブタイトルが着いています。第二作では「ブギーポップ・リターンズ」……続編にはありがちなサブタイです(笑)。
 ところで、本作では前作よりはスタンダードな造りになっています。たまに回想シーンがある程度で、基本的には順々に進んでいきます……が、これはワナでした(笑)。
 本作では新キャラが目白押しであり、それに前作のキャラも一杯入っていますので話がややこしいです(笑)。そしていきなり核心部分に近い話が展開されます。
 物語の核心を占めるのは、イマジネーター。実はこの概念が、シリーズのテーマとも言える存在となっています。イマジネーターは「進化を促す者」になるかな?イマジネーターは人に未来を見せます。その可能性を示します。そしてその可能性に向かって人を向かわせます……でもこの行為、ブギーポップにとっては「世界の敵」だそうで。で、これに絡んでくるのが、統和機構という組織(?)。こちらはそう言う「進化した人」を探しだし、消していくという怖い組織。その本当の目的はよく分かりませんが、合成人間なんてものを送り込んで悪さをします。
 ところが、またも物語は分裂し、平行して進行していきます。一つはイマジネーター中心の物語、そしてもう一つは統和機構寄りの物語です。で、これがほとんど直交してます(^^;。もちろん登場人物の交流は行われますが、物語間を行き来する人はあまりいません。そしてクライマックスでは一つに合流するわけですが、クライマックスに合流できなかった人達というのはほとんど捨て石みたいなものです(^^;。本筋に絡むという程でなく、ほんとに巻き込まれるだけと言うか、なんか自分の知らない世界が一杯みたいな……なんか、現実みたいですよね?
 まあ、結局「世界の敵」は倒されてしまうのですが、この物語で出てきたパターンは、今後の作品にも踏襲されていきます。その意味で、本作はシリーズの中核をなす作品であり、必読の書と言えるでしょう。実のところ、ここから一気に「エンブリオ浸蝕」までスキップしてもいいくらいです(笑)。ですが、あくまで順番に。でないとおもしろみが半減してしまいますから……。

パンドラ

 この作品はちょっと異色……いや、案外核心部分なのかも知れませんが。サブタイトルは「ブギーポップ・イン・ザ・ミラー」。
 全二作の流れとは切り放されて、独立しています。前作の登場人物も絡んできますが、狂言回しみたいなものです。それはブギーポップですら例外ではありません。
 特殊な能力を持つ六人が主人公です。彼らは自分が他人とは違うことを知っていて、それを隠しています。そんな六人が出会い、その能力を使ってある事件に関わっていくことになります。結果として……ある意味不幸な結末にはなりますが、それはあくまでも結果に過ぎません。結果は重要でなく、その過程で行われる様々な判断、悩み、そして想い……それらがこの物語では重要なのです。いや、全ての作品がそうなのかもしれません。
 この話はここで終わりです。他の作品にはほとんど影響を与えません。が、それだけにもっとも重要な作品なのではないかと考えるのであります。

歪曲王

 こちらは「ブギーポップは笑わない」の続編と言える作品です。と同時に、以後の作品をつなぎ合わせる役割を担っています。なんでもこれが最終作予定だったそうですが、エンディング見る限りそうはなってないことがわかります(^^;。サブタイトルは「ブギーポップ・オーバードライブ」。
 さて時はバレンタインデイ、ただこの一日だけです。ムーンテンプルなる変な建物で繰り広げられる人間模様……そんな感じのお話ですね。ムーンテンプルはアニメにも出てきましたが、これを建てた人物、寺月は統和機構の合成人間。でも反逆の気配有として始末されてしまっています。始末したのはパンドラに登場した合成人間です(これは最後の方でわかりますが)。この辺りから他の作品との関連性が深まってくるのです。
 で、物語の方はといえば、ムーンテンプルに閉じ込められてしまった登場人物が、自分の心の歪み「歪曲王」と対決するといった趣の話。この歪曲王、実は一人の登場人物に「自動的」に現れてきたものだそうで、ブギーポップの同類らしい(^^;。ま、当然消えてしまうわけなんですが……ここだけの存在なんですよね、歪曲王。この話自体は他にあまり影響しないという(^^;。もっとも重要な存在である寺月の顔見せ話みたいなものです。ただそれはシリーズ全体〜見た話ではありますが……。

夜明けのブギーポップ

 この話は、昔話です。霧間凪を中心にした物語ですが、その他大勢の人間が巻き込まれていきます(人間じゃないのまで巻き込まれるが(^^;)。で、昔話なだけに、明かされる真実はかなり多いのです。それを順に上げていきましょう。実に強烈なねたばらしになります。
 オープニングから強烈です。「笑わない」のエコーズが崩壊する異世界でブギーポップと会っています。「歪曲王」で出てきた怪獣ゾーラギのせいで壊れてしまうらしいですが、まだ歪曲王は生まれていないそうですから、怪しい世界です(笑)。まあ、これはいいとして……。
 統和機構の合成人間が大勢出てきますが、この作品の中だけでしか活躍しません(その事はちらほらと他作品に出てくるのがわかりますが)。で、この話のメインは霧間凪なのですが、彼女はここで「進化した人」ならぬ「進化し損ねた人」であることが明かされます。統和機構用語で言うところのMPLSだそうでして、それを発見する使命を与えられた合成人間・スケアクウと出会ってしまうところから事態は進展します。なんと彼は凪を助けてしまうんですね(^^;。そのせいで殺されてしまうのですが、その現場に居合わせたのが、こともあろうが宮下藤花……ブギーポップの宿主。でも、まだブギーポップは出てきません。この時、初めて自動的に出てきたらしいですね。で、トレードマークの「変な表情」は黒田の死にかけている時の表情であることがわかるのです。
 で、彼の行為は凪を救いますが、とんでもない化物まで生み出してしまいます。それが引き起こすのが連続猟奇殺人事件です。この事件、シリーズ重要人物である末真があわや巻き込まれかかった事件そのもの。で、この事件の犯人だとされてしまった人物、佐々木政則は合成人間だったんですねえ。暗殺専門の彼は黒田を始末しますが、その彼が次に始末するのが、凪の父親の霧間誠一だったりする。誠一の言葉は作品中に幾つも提示されていますが、彼の行為は「進化」を促進する効果があったために殺されてしまうのです。実際、彼の言葉を知って能力を発揮する人も居たようです。で、その人物を殺したのも奇しくも佐々木だったのですが、その人物に奇妙なことを言われ、それが気にかかって、凪が化物退治をするときに彼女の手助けをしてしまうのです。で、恐ろしいことに、その言われた言葉というのが、後の作品で登場したりするのですから、とんでもねー構造していることがわかるとおもいます。まさに伏線のオンパレード……しかし、それは読者にしかわからないのです(^^;。そして最後に、凪とブギーポップは出会うのです。これが腐れ縁の始まりってことですね。
 そんなわけで、色々と事情のわかった本作品……でも、シリーズの流れとしては、やっぱり昔話なのです。外伝に近い。後日談ならぬ前日談な訳ですが(^^;、他にも子供の頃のイマジネーターと誠一があってたりとか、黒田が寺月の調査をしていただとか、色々楽しい話で溢れている作品なのでした。

ペパーミントの魔術師

 前作が伏線ばりばりなお話だったのとは一転して、外伝的なお話です。サブタイトルは「ブギーポップ・ミッシング」。とはいえそうそう他の作品と独立しているわけはありません。キーマンは寺月。歪曲王でおなじみですね(^^:。そんな彼が、失敗合成人間・軌川十助を発見することろから始まり、十助のたぐいまれなアイスクリーム製造術(^^;を利用してなにかを企むのです。当然その行為は統和機構的でなくてはなりませんが、寺月は反逆者なので大したことはしません。ただアイスクリームを販売しただけ。ですが十助の作るアイスクリームには、人を虜にして止まない力があったのです。しかし、統和機構は彼を不要と判断、始末することにします。既に寺月は処分され、周りは合成人間だらけ……でも、十助は生き残ります。その後さまよう彼は、その能力が「世界の敵」とブギーポップに認められながらも、これまでのショックによる変化によって、永遠にさまようことになるのでした……。
 つーわけで、詳しくは本編をご覧下さい(笑)。十助の心の動きがメインの話なので、あまり書くことないんですよ(^^ゞ。一応、スプーキー・Eも出てくるし、飛鳥井仁(VSイマジネータ以後です)も出てきますので他と関係がないとは言えないのですが、薄いんです、関係が。最後は見捨てられるくらいだし(^^;。なんで、さくっと次に進みましょう……。

エンブリオ浸蝕、エンブリオ炎生

 これまでの作品で色々なことが明かされていますが、これはその集大成みたいな話です。というか、この作品でシリーズの流れが大きく変ってしまいます。これまでは、なにか起きるんだけど、なんとなく終息してしまうという形ばかりでした。しかし今回はそうは行かないようです。
 事の起こりは、殻を破らせるもの、つまり進化を促すものであるもの、エンブリオが一人の少年に渡されるところから始まります。エンブリオは卵という意味らしいですが、某ポケステ(笑)の様な形状をしております。運んできたのは合成人間・サイドワインダー。元々エンブリオとは、とある人物の能力をコピーしたものだったのですが、サイドワインダーは統和機構には渡さなかったのです。なぜか?それは元々の人物を殺させる要因を作ったのが彼であり、それを悔いていたからなのです……うーむ、合成人間というのはなんてもろいんでしょう(^^;。私はあまりに人間そっくりに作ったためだと思うのですが、もっと人格に制限かけるとかすればよかったのにねえ(^^;。で、実際に殺したのモ・マーダーこと佐々木政則。はて、どこかで聞いたような……そう、「夜明けのブギーポップ」で出てきた佐々木氏ですね(笑)。そして彼の殺した人物は、霧間凪の父親である誠一の著作によって能力に目覚め、それ故に殺されてしまう人物。まさに因果は巡る糸車……もう笑っちゃいそうになります(^^;。
 更に因果は巡ります。その人物のことを兄と慕っていた少女が出てくるのです。そして彼女がイマジネーター・水乃星透子に関係する人物だということがわかります。でもこの話自体はまだ書かれていません。次回作はその話かな?(^^;。で、その少女は作中では振り回されっぱなしなので、特別重要な存在ではありません(あくまでストーリーを進めると言う意味で)。他にも、「笑わない」のマンティコアのせいで脱走した合成人間だの、「ペパーミントの魔術師」で十助を殺し損ねたスクイーズが出てきたり、かと思えば「VSイマジネーター」の最後の舞台が出てきたりします。しかし単なる周辺事情にすぎません。
 物語は二人の人物の戦いがメインなのです。合成人間最強の存在・フォルテッシモと、エンブリオによって殻を破った男・イナズマの。互いに己の全存在をかけて戦います。結果は……つきません(笑)。メインとか書きましたけど、実はそうでもない。派手だし、見栄えもあったのですが、ただそれだけ……。
 今回は「殻を破る」ということを全面に押し出したものとなっています。今までだと、殻やぶったり破ろうとする者はブギーポップに始末されてしまったのでそこでおしまいだったのですが、殻やぶった奴はどっか行っちゃうは、殻を破らせるものはのこっちまうはで、ブギーポップは役立たずもいい所(^^;。しかし、そこには「人の意思」というものが関係するようです。エンブリオを消さなかったのはそれの存在価値を信じるという少女の意思を知ったからであり、殻を破った者は自分の意思で、それも友という他人のためにその力を使用します。それ故に見逃されたのではないか?そう思うのです。でも、ブギーポップでも気がつかないような「真の可能性」があるそうなので、殻を破る云々程度では「世界の敵」にはならないのかもしれませんね。
 それはともかく(良くないって(^^;)、統和機構側はかなり問題を抱えているようですし、統和機構のことを知る人間まで現れてきました。かなり緊張が高まってきたのは事実のようです。果たしてどんな結末を迎えるのでしょうか……?
 でも、伏線はだいぶ収拾してきたから、今後は読みとくのが楽かな(笑)

まとめ

 現在進行形の作品をまとめるというのはなんなのですが(^^;、ともかくおもしろい!伏線に次ぐ伏線の複雑怪奇たるや、読んでいて楽しくなってしまいます。小説書きのはしくれとしては非常に衝撃的なお話なのでした。まだ結末は見えませんが、きっと楽しませてくれるでしょう……ついでに苦しませてもくれるでしょう(笑)
 最後に、シリーズの相関図の様なものを作ってみました。Excel4のワークシート形式CSV形式を用意してみましたのでご利用下さい。まだよく分からないところがありますが、もし分ければご一報下さいませ(笑)。


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